演奏会等の感想

シヴ・クマール・シャルマさんの来日公演 01・6・1

初日の東京公演、かつしかシンフォニーヒルズに行ってきました。
もう12年前になるようですが、東京サントリー小ホールで、タブラのザキールフセインさんとの演奏を聴いて以来です。
今回は、息子さんのラフル・シャルマさん、そしてタブラのシャファット・アフメド・カーンさんの3人での来日です。

プログラムは、
1部:ラーガ・バチャスバティー(7拍、12拍)
2部:ラーガ・ミシュラ・ボパリを基調としたカシミールの民謡アレンジ
でした。

前回のサントリー小ホールよりも広い会場でしたので、音響装置の音量を大きくしていました。繊細な音色を、客席の一番後まで届けるのには、これは仕方のないことですね。
音響の方も苦労されたことでしょう・・・御苦労様です。

さて、演奏は、静かなアーラープ(リズムのないパート)から始まりましたが、改めて、シヴ・クマールさんのサントゥールの繊細なスティックの使い方には、感激しました。
弦の上を、羽毛で撫でているような、繊細でしかも正確な美しいトリル。
リズムとコントロールがこの上なく正確ですから、音量を大きくしたり小さくしたりが自由自在です。
スティックを置いた瞬間、自動的にスティックが動いているような感じですよ!
単にテクニックを見せる、というのではありません。
古典声楽に、「声」に近づけるための研究と研鑚を積み重ねてこられた・・・
ただそれを表現するための技術を考えられたのですね。
これはすごいことです!
ラフルさんの演奏もよかったでした。
お父さんの技術をしっかり受け継いでいて、とても素敵でしたよ。
最近、Duoが増えてきましたね!
新しい形式を作るんだ!という意欲が感じられて好きです。

そんな、綺麗な前奏の後に、太鼓のタブラが加わります。
シャファットさんの伴奏も素晴らしかった!
特に、バヤ(低音の太鼓)のあの細やかでメロディアスな装飾!
例えば、タブラの教則本などに書いてある、「Dhin Dhin Na」 とかいうニュアンスも、実際の演奏では、「Dhi~nnu~ nuDhiin・ Nakku 」位までの細かさで表現されています。
ちょっと驚きです。
それも、サントゥールが苦労して表現しようとしているニュアンスを支える「必然性」があるからこそ、そういった技術を使っているわけです。
別に、技術を見せつけているわけではありません。
それに、インド古典音楽演奏会によくある、「タブラソロ→拍手」という例のおきまりのパターンでも、「こんなとこでおおげさな拍手すんなよ」と、さりげなく受け流す感じで、(私としては)好感が持てました。

また、今回の演奏で気がついたことは、シヴ・クマールさんの演奏のダイナミズムの幅です。始めの小さな小さな微かな音から、テンポのある大きな音まで、自在に扱っています。
Duoの必然性もそこから生まれてくるわけです。
これは、録音物ではなかなか体感出来にくい感触でしょうね。


2部の演奏の前半、シヴ・クマールさんの故郷・カシミールのメロディのアレンジ・・・・
まるで、その土地の踊りの曲のようでした。とっても楽しんで、また懐かしさを思い出して演奏されているようでした。
「カシミール」といえば、国境紛争でもめている地域・・・
でも、彼の中ではカシミールはいつまでも、音楽や踊りを愛する人達が平和に暮らしていける土地であって欲しい・・・
そんな願いがあるんだろうなと、後になって思い返しています。


演奏前の挨拶でも言われていたと思うのですが、即興を主体とした音楽です。
演奏者のイメージやアイデアが、そのまま音楽に出ます。
言いかえれば、イメージやアイデアが希薄な演奏は、いくら上手っぽく演奏しても、聴いていてもつまらないのです。
「古典音楽」というと、つい何千年も昔からの音楽を一音も間違えることなく継承しているものと誤解を受けるのですが、「Raga」という形式は多分それとは違うものでしょう。
私としては、育てていくもの〔インド音楽鑑賞〕であると思っています。