本文は、アーユルヴェーダ通信Vol.4
No.3 '90/9/1(日本アーユルヴェーダ学会・発行 http://www2.begin.or.jp/ytokoji/ayurveda/
)で掲載されたものに、加筆訂正を加えて、連載していきます。 はじめに 例えば、日本の伝統文化に関心をもつ外国人に、「春の海」を聴かせて、「これは古くから日本で親しまれている伝統曲です」と紹介するようなことは、よくありがちなことです。また、正月に「伝統曲」として様々なメディアで使われています。 これから、述べていくのは、今まであまりインド音楽に親しむ機会がなかった方に、そんな「何かを感じる」きっかけ、あるいは、親しんでいただける動機のようなものを、お伝えするのが目的です。 現在、インド音楽についての研究会も、いろいろあるので、私も勉強させていただきながら、随時このホームページでも、取り上げていくつもりですが、ここでは、私なりの解釈で、この音楽について、多くの方に分かりやすい形で説明させていただきます。 分かりにくいところがあったとしたならば、それは、音楽の難しさではなく、私の説明の力不足の一言につきるものです。 |
インド音楽の種類 インドは、古い歴史をもち、また、多くの民族が同居していますので、異なる文化がまた同時に存在しています。
今回ここで取り上げようとするのは、1.のうち、北インドの古典音楽です。(以下これにつて、「インド音楽」と省略して呼びます)
などを除いては、周囲にある違った分野の音楽と、互いに影響を及ぼし合いながら、発展するものですので、他の分野、また、近辺の文化圏(例えばペルシャ音楽)の音楽を理解する上でも有益だと思います。 |
ドローン(通奏音)について ドローン(通奏音)は、この音楽にとって、極めて重要な役割を持っています。旋律・そしてリズム にとっても、この通奏音は、演奏の基準となるものです。 インドの音楽の多くは、転調、あるいは、基準の音を曲中で変える、ということをせずに発展してきました。 慣れない方が良く言われる「インド音楽はどれもみな同じに聴こえる」というご感想は、裏返せば、<このドローンが非常に意識される>、ということかもしれません。 この通奏音をはっきり出す楽器があります。それはタンプーラ(タンブーラ)といいます。 先年、ドゥルパッド(北インドの古い形式の歌曲)のワシフディン・ダーガルさんが来日されたとき、ふたりのタンプーラ奏者がご一緒でした。それまで、何回か録音されたものは聴いていたのですが、あのタンプーラの音は、インドのとても反響の良い石造りの部屋のようなところで録音されたもの、とばかり思っていました。 |
RAGA・育てていくもの インドの古典音楽では、曲のことをRagaと呼びます。ただ、このRagaは、西洋の古典音楽でいう「曲」よりも、「〜長調」「〜短調」、あるいは日本の邦楽でいう「〜調子」、のようなものです。 つまり、西洋古典音楽ですと 上のふたつを比較していただくと、よく分かると思うのですが、「作曲者」は、インドの古典音楽では、「演奏者」にあたり、「調」が「raga」にあたります。 西洋音楽・インド音楽の両方に造詣の深い作曲家・二宮玲子氏によれば、「西洋の古典音楽では、『Raga』にあたるものは『調』であり、長調、短調のおおまかな分類のなかで、音楽を発達させてきた。そこから、和音という体系を極めて高度に発達させてきた。しかし、インドの古典音楽の場合は、むしろ旋律体系である「調」を数多く、高度に発達させてきた」(辰野聞き書き) ということになります。 |